熊本近代文学研究会 7月例会のお知らせ

熊本近代文学研究会 会員各位

拝啓 時下ますますご清栄のことと存じます。
さて、熊本近代文学研究会 次回例会を下記のとおり開催いたしますので、ご案内申し上げます。

    記
【日時】  8月4日(土) 午後2時より
【会場】  熊本大学文学部会議室
【発表者】 道園達也 氏
【発表題目】武田泰淳「審判」論―非帰還者の罪の意識―
【発表要旨】
 1940・50年代の日本語文学には、数多くの帰還者/非帰還者の物語がある。ここでいう帰還者は帰還兵、復員兵と引揚者を指す。帰還者自らが多くの作品を書いている。また〈外地〉体験のない作家が帰還者を書くこともあった。その背景には〈内地〉と〈外地〉の往還の多様性がある。植民地政策によって〈内地〉出身者が生活のため〈外地〉へ移住していった。そして1930年代以降戦線が拡大されるに従って、戦地へと送り出される人も増えていった。人々は都合によって、または除隊されて帰還する。特に敗戦後の帰還者は「六〇〇万人から七〇〇万人もの膨大な数」(若槻泰雄『戦後引揚げの記録』)に上ると言われている。さらに〈外地〉出身者の〈内地〉への留学と帰還、戦後の本国送還などの動向がある。それらの人々が日本語文学にもたらしたものは何であろうか。それを帰還者/非帰還者の物語を検討することよって明らかにしたいというのが現在の研究課題である。
 今回の発表では武田泰淳「審判」を取り上げる。武田泰淳は1937年召集、中国大陸を転戦し、39年除隊。そして44年6月上海に渡り敗戦を迎え、46年2月引揚げ、47年4月「審判」(「批評」第60号)を発表している。その「審判」は「贖罪のため、恋人とも別れ、大陸に居残るという青年の心理」(荒正人「第二の新人群」)を書いた作品であると述べられている。「審判」は、帰還兵にして引揚者である武田泰淳の書いた非帰還者の物語であり、その非帰還に罪の意識が表現されている。その独自性を、当時の日本と中国の新聞記事等との比較を通して、再検討していきたい。
                         敬具
    7月 10日
             熊本近代文学研究会
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* 坂元です。会員の皆様におかれましては、ご多忙のことと存じます。
上記のとおり、7月例会を企画しておりますので、ご案内申し上げます。

* 前回例会は、廖育卿氏の「森鴎外訳『即興詩人』における漢語表現」ならびに、李詠青氏の「村上春樹ノルウェイの森』の翻訳をめぐる諸問題」の二つの報告が行われました。当日は、「翻訳」という問題を取り上げたお二人のそれぞれの興味深いご発表をめぐって、活発な質疑が交わされました。
 当日ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
 
* 次回例会は、道園達也氏による武田泰淳「審判」に関する研究発表を予定しております。近年、武田泰淳に関して精力的にご研究を進めておられる道園氏による「審判」論の決定版、当日はご参加いただけましたら幸いです。

* なお、次回例会は諸都合によりまして、8月初めの開催となりました。当初の例会日程が変更となりましたことについて、お詫び申し上げます。

* それでは、例会当日に皆様にお目にかかるのを楽しみにしております。梅雨明けが待たれるこの頃、会員の皆様、お体はどうぞご自愛ください。
                         (坂元)